ライター 阿部真麩美
昨年からお習字を習い始めました。
1年目は初心者向けの楷書や行書が中心でしたが、大人の書道教室なので2年目に入った途端に難しくなり、お手本が百人一首に。
草書なのでもちろん書けないし、その前に、読めません。
先日の課題も、読めた文字は半分以下でした。
たち別れ いなばの山の 峰に生ふる
まつとし聞かば 今帰り来む
作者は在原行平(ありわらのゆきひら)で、伊勢物語のモデルとも言われる美男子のプレイボーイ、在原業平(ありわらのなりひら)のお兄さん。
弟に劣らず兄の方もなかなかの遊び人で、須磨に流された時には村長の二人の娘を身近に召して、楽しく暮らしていたとか。
この姉妹が海水を鍋に入れて炊いたら、雪のような塩ができたことから、「雪平鍋(ゆきひらなべ)」が生まれたという話もあります。
さて、この和歌ですが、いなくなった猫を探すためのおまじないとしても知られていますよね。
意味は、「お別れして因幡の国へ行きますが、稲羽山の峰に生えている松の木のように、あなたが私の帰りを待っていると聞いたなら、すぐに戻ってまいります」ということから、別れた人や動物が戻ってくるように願掛けをする時に詠まれるようです。
実は、私もこの和歌のお世話になったことがあります。
ゴールデンウィークに夫の実家に帰省するため、愛猫のデンちゃんを私の実家に預けたところ、3日目にお風呂場の窓から脱走したと連絡が。
慌てて戻り、迷子猫のポスターを作ってあちこちに貼り出しましたが、一週間経ってもなんの手がかりもありませんでした。
仕事も手につかず、毎日泣き暮らしていた時、猫好きの友人から聞いたのがこの和歌と、ポスターには必ず謝礼の金額を書き記すこと。
「お礼を差し上げます」では気に留めてもらえないし、いくら謝礼が払われるかを明確にしないと、人が噂をしてくれないからだそうです。
確かに、「猫を探しているんだって」よりも「猫を見つけたら、謝礼が○円なんだって」の方が、職場でも家庭でも話題になりやすい。
なるほどと思った私たちは、デンちゃんがあまりにも可愛いから手放したくなくて連絡をくれないに違いないと考え、ペットショップで新しい猫を買うたしになる金額として、謝礼10万円でポスターを作り直し、貼り出すだけではなく、近隣の住戸に500枚くらいポスティングしました。
会社を休んで平日に配っていたせいか、出くわした人には幾度となくペット探偵団と間違われました。
最初は、「いいえ、うちの猫なんです」と、いなくなってどんなに心配しているかを訴えながら「どこかで噂を聞いたらお願いしますね」と頭を下げていたのですが、声をかけてくれるのはほとんどが猫好きの方。
ついつい「うちもいなくなった時、辛くてね〜。専門家ならお名刺いただいておこうと思ったのよ」なんて話が長くなって、仕事が進まない。
こうした経験を積んだ結果、「はい、ペット探偵団です。名刺は今はありませんが、猫を見かけたらよろしくお願いします」と小さな嘘で乗り切りました。
その結果、「猫を見かけた」という電話が何本も入るようになりました。
かかってきた電話の第一声が「10万円の猫の件」と言われることが多く、やはりお金の力は偉大だと感じました。
ただ、デンちゃんの似顔絵や茶色のシマシマのロン毛が特徴と書いてあるにもかかわらず、入ってくる情報は似ても似つかない猫ばかり。
「白猫が迷い込んできた」と言われた時に、きっぱり「うちの猫ではありません」と答えているのに「家出して苦労したから白髪になったのかもしれないじゃないですか」と食い下がられたこともありました。
結局、一月半ほど経ってからデンちゃんは無事に見つかりましたが、それまでの間、何度この和歌を唱えたことか。
これ以上は何もできないのに、それでも何かせずにはいられない時、おまじないや祈りの言葉は、心の支えになるのだと感じました。
お金と和歌の力の大きさを思い知った数ヶ月でした。
今でも、百人一首をしたら、この札だけは取れそうな気がします。
「お客様の声」より、Adessoがお気に入り♪ ゆったりくつろぐ まろ君
#32 飼い主さんも絶対満足。カリカリーナの新製品は、これで決まりニャ!
#31 お花を見たりアートを見たり。そこに猫が加われば、散歩って最高の贅沢だニャ!
#30 日本中の女の子にお知らせ。 猫がニャアと鳴いてくれて、本当に良かったニャン!